KJ's Books and Music

古寺多見(kojitaken)の本と音楽のブログ

読書

水谷彰良『サリエーリ - モーツァルトに消された宮廷楽長』(音楽之友社, 2004) を読む

明日には図書館に返さなければならないので、水谷彰良著『サリエーリ - モーツァルトに消された宮廷楽長』(音楽之友社, 2004)についてメモを残しておく。下記は2019年の復刊版へのリンク。 www.fukkan.com 本文を始める前に、弊ブログにいただいた下記コメ…

森本恭正『日本のクラシック音楽は歪んでいる』(光文社新書,2024) の「調性音楽は階級を体現している」という主張には無理がある。また、専門家とは思えない教会旋法の説明のいい加減さに呆れた。

最初に読み終えたミステリについて少しだけ書いておく。 アガサ・クリスティのポワロものの31番目の長篇『ハロウィーン・パーティ』を、昨年新訳版が出たハヤカワ・クリスティー文庫で読んだ。旧版は中村能三(1903-1981)訳だったが、山本やよい氏(1947-)…

アガサ・クリスティ77歳の作品『終りなき夜に生れつく』は、クリスティ作品ベスト5に入れたい大傑作

久しぶりにアガサ・クリスティのミステリを取り上げる。 現在の私は作曲家・モーツァルトの生涯とその音楽を追うことに熱中しているが、3年前から熱中していたのがアガサ・クリスティの全ミステリ(アドバンチャーものを含む)を読むことで、昨年末の時点で…

モーツァルトが母の死の悲しみを込めた(に違いない)ヴァイオリンソナタK304とピアノソナタK310/モーツァルトは母が死んだ当日、父と姉に母の重病を知らせる手紙を書き送った/大江健三郎『万延元年のフットボール』を読んだ

この週末は大江健三郎と吉田秀和を再発見というか、大江に関しては新発見した。このことによって、一昨日と昨日の土日は、いつまで続く(続けられる)かは全くわからない今後の人生において大きな転換点になるかもしれないと思った。 まず大江健三郎について…

ブログ『海神日和』(運営者:だいだらぼっち氏) の連載ブログ記事「ピケティの新社会主義論」へのリンク集

トマ・ピケティの『資本とイデオロギー』(原書2019, 邦訳みすず書房2023=山形浩生・森本正史訳)は、邦訳が出たばかりの8月下旬に買ったけれどもまだ1ページも読んでいない。まとまった時間がとれないからだが、この本を読みながら連載記事を断続的に公開…

チェーホフ唯一の長篇『狩場の悲劇』(原卓也訳・中公文庫2022) を読む。クリスティ『アクロイド殺し』の先例であることより「信頼できない語り手」の「純粋な悪」ぶりが印象的

10月はここまでずっと仕事に忙殺された。少なくとも来年1月前半までは仕事に追われそうだ。しかもその3冊のうち1冊は、9月中に大部分を読んでいて月の最初の日である10月1日の日曜日に読み終えた本だった。それがアントン・チェーホフ(1860-1904)が20代半…

宮部みゆき『模倣犯』(一)〜(五)(新潮文庫)を読む。露文学者・亀山郁夫氏が書いた本書のレビューに注目した

初めにお断りしておきますが、この記事は表記作品のネタバレが満載ですので、当該の小説を未読の方にはおすすめしません。 8月最後の日曜日に区立図書館に行った時、今まで全巻揃っているのを一度も見かけたことがなかった宮部みゆきの『模倣犯』全5冊(新潮…

トルストイ「クロイツェル・ソナタ」を読む (第3回) トルストイの小説中のベートーヴェンのソナタの描写が実際の曲の流れと合っていない。この矛盾を解消した小説の改変版が広く流布している

先週公開したガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』の記事に、トルストイが『アンナ・カレーニナ』の中で、後年『オペラ座の怪人』ヒロインのモデルとされたスウェーデン出身の女声オペラ歌手に言及していたことに触れたので、3回連載を予告しながら未だに締…

「ホラー小説の先駆け」らしいガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』(1910)も後半は冒険活劇だった

前回取り上げた『黄色い部屋の秘密』を書いたガストン・ルルーのもう一つの代表作『オペラ座の怪人』(1910)は昨日(9/2)、2022年に出たばかりの新潮文庫の村松潔訳で一気読みした。 www.shinchosha.co.jp 役者の村松潔は東京都江東区出身で1946年12月1日…

子ども時代にリライト版を読む前からネタバレを食ったガストン・ルルー『黄色い部屋の秘密』をようやく完読した

ミステリのネタバレは今では禁物とされているけれども昔は横行していた。私が小学生時代に子ども用にリライトされた版で読んだガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』も犯人を知らされた上で読んだから興味は半減だった。 この作品を自作のミステリ『複数の時…

宮部みゆき『小暮写眞館I〜IV』(新潮文庫nex,2017) を読む

私が現在住む東京都江東区出身のミステリ・歴史小説作家で私と同世代の宮部みゆきが2010年に書いた非ミステリの現代小説である『小暮写眞館』を読んだ。もとは講談社の創業100年を記念して2010年に刊行された作品とのことで、700ページを超える分厚いハード…

トルストイ「クロイツェル・ソナタ」を読む (第2回) 「クロイツェル・ソナタ」とアガサ・クリスティのとある中篇(短篇)小説とシェイクスピアの『オセロ』

少し間が空いたが、7月23日に公開した下記記事の続き。 kj-books-and-music.hatenablog.com トルストイの中篇「クロイツェル・ソナタ」は、妻の不貞を疑った夫が、仕事のために外出して空けているはずの家に帰ってきて、疑っていたヴァイオリニストが妻と一…

東野圭吾『レイクサイド』(2002)のあまりの腐臭にげんなりした

予定を変更して東野圭吾の「腐敗した」という感想しか思い浮かばない邪悪なミステリ『レイクサイド』(文春文庫)をぶっ叩くことにした。私は『容疑者Xの献身』(文春文庫)を読んで以来東野圭吾が大嫌いだが、たまに東野を批判するためだけに東野の小説を読…

トルストイ「クロイツェル・ソナタ」を読む (第1回) トルストイとは40代までの自分の放蕩生活を棚に上げて「禁欲主義」の説教を行った人。妻・ソフィアを「世界三大悪妻」に数え入れるのは明らかに理不尽

私が初めて読んだトルストイの小説は『アンナ・カレーニナ』で、もう40年前のことだった*1。これは面白かったが、次に読んだ『戦争と平和』にはへこたれた。特に、物語の流れをしばしば中断して長々と展開されるトルストイの自説の開陳に辟易し、それでもな…

船戸与一『砂のクロニクル』(小学館文庫)を読む

今週の超多忙期に入る直前の先週、もうすぐしたらネットもできなくなるし本も読めなくなるとわかっていたら、却って読書欲が増して半藤一利の『ノモンハンの夏』(文春文庫, 2001)と船戸与一の『砂のクロニクル』(小学館文庫上下巻, 2014)を相次いで読ん…

小泉悠『ウクライナ戦争』(ちくま新書,2022)を読む

今月は新しく読み終えた本が7冊。少し元のペースに戻したが、それでも2010年代に年間100冊をめどにしていた頃には戻っていない。 読み終えた本の中に小泉悠の『ウクライナ戦争』(ちくま新書,2022)がある。 www.chikumashobo.co.jp 今頃になってやっと読め…

読み終えたばかりの鈴木大介『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)が講談社から販売中止になり、同社のサイトに回収の告知がされていた

昨日(5/26)読み終えた鈴木大介『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)が講談社から販売中止になり、同社のサイトに回収の告知がされていた。 bookclub.kodansha.co.jp この本の読後感を一言で書くと、正直言って甚だしく「期待外れ」の本だったが、そ…

ディケンズ『二都物語』(1859)を加賀山卓朗訳の新潮文庫新訳版(2014)で読む/ネタバレを嫌うなら中野好夫訳新潮文庫旧版(1967)は絶対に選んではいけない

黄金週間最後の日曜日から金曜日までかけて、チャールズ・ディケンズの『二都物語』(加賀山卓朗訳, 新潮文庫版2014)を読んだ。 www.shinchosha.co.jp 最初に大事なことを書いておくと、今回の読書では非常な幸運に恵まれた。というのは、本作の末尾に非常…

小松左京『日本沈没』(1973) を読む

連休後半に小松左京(1931-2011)の『日本沈没』(1973)を2020年のハルキ文庫版上下巻で読んだ。初出は光文社のカッパ・ノベルス。図書館本で読んで、今日が返却日なので簡単にメモを残しておく。 この本は少年時代からいつか読もうと思いつつ長年放置して…

【ネタバレあり】小泉喜美子『弁護側の証人』(1963) は「映像化絶対不可能」との宣伝文句だが、1980年にNHKのドラマ『冬の祝婚歌』で映像化されている

4月に読んだ本は5冊だけだったが、うち4冊がミステリで、しかもその中には批判する目的でしか読まない東野圭吾作品が1つ含まれている。昨年来の多忙の疲れが新年度に入ってもまだ残っている体感がある。だから打率1割4分台にまで落ちてスワローズ7連敗の戦犯…

岸田文雄首相の思わぬ“挫折”…正月休暇用に購入した『カラマーゾフの兄弟』を1巻で投げ出していた! (Smart FLASH)

『kojitakenの日記』に、連日立民代表の泉健太をこき下ろす記事ばかり書いてきたが、日本国総理大臣にして自民党総裁の岸田文雄も泉と同じくらい大嫌いだ。その岸田がますます嫌いになる一幕があった。岸田は年末に東京都心の八重洲ブックセンターで15冊の本…

黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』(中公新書, 2002)を読む

今年後半は仕事に割かざるを得ない時間が多すぎて閉口した。9月には弊ブログの更新回数が一桁だったし、更新回数を増やした10月と11月は読んだ本がそれぞれアガサ・クリスティのミステリ1冊ずつという惨状。年末年始も来年早々の仕事のために一定の時間を割…

2022年8月に読んだ本 〜 アガサ・クリスティー『葬儀を終えて』(ハヤカワ文庫・新訳版)、黒木登志夫『変異ウイルスとの闘い』(中公新書)

8月は非常に忙しくて本もまともに読めなかった。しかし2019年1月以来の43か月連続更新が途切れるのも癪なので、今月読んだたった2冊の本の書名を挙げておく。 1冊目は、昨年1月以来20か月連続で読んでいるアガサ・クリスティの『葬儀を終えて』。一昨年にハ…

中北浩爾『日本共産党 - 「革命」を夢見た100年』を読む - (1) 日本共産党の「民主集中制」の問題点

本記事は、当初『kojitakenの日記』の下記記事の後半部分として書き始めていたものだ。 kojitaken.hatenablog.com 以下、今年(2022年)5月に刊行された中北浩爾『日本共産党 - 「革命」を夢見た100年』(中公新書)を参照しながら、日本共産党の民主集中制…

本多勝一『アムンセンとスコット』(朝日文庫)は、本文もさることながら山口周の解説文が非常に示唆的

かつての朝日新聞のスター記者にして、1992年以降は『週刊金曜日』の創設者として知られる本多勝一が1980年代に書いた『アムンセンとスコット』(単行本初出は教育社,1986)が昨年末に朝日文庫入りした。それを買い込んで積ん読にしていたが、読み始めたら面…

ポーより早く探偵小説の原型を発表した(?)ディケンズ『オリバー・ツイスト』/後年の作品の萌芽を多く含む村上春樹『1973年のピンボール』

連休中にチャールズ・ディケンズ(1812-70)の長篇『荒涼館』(岩波文庫2017, 全4冊=原著1852-53)を読んだ余勢を駆って、同じ著者の有名作品ながら読んだことがなかった『オリバー・ツイスト』(原著1837-39)を2020年に出た光文社古典新訳文庫で読んだ。 …

チャールズ・ディケンズ作(佐々木徹訳)『荒涼館』(全4冊・岩波文庫)を読む

読み終えてから少し時間が経ってしまったが、休日が多かった今年の黄金週間に、チャールズ・ディケンズ(1812-1870)の『荒涼館』全4冊(岩波文庫,2017)を読んだ。訳者は佐々木徹(1956-)で、図書館で借りて読んだ。 www.iwanami.co.jp www.iwanami.co.jp …

東野圭吾『白夜』(1999)は作者最高傑作の「暗黒小説」かも/新田次郎『山が見ていた』/アガサ・クリスティ『死が最後にやってくる』

今年の3月はあまり暇がなかった上にちょっとしたトラブルもあった散々な月だったが、2月24日に始まったウクライナ戦争で思い出していたのは先月読み終えた大岡昇平の『レイテ戦記』だった。熱帯のフィリピン・レイテ島と冬季の北の国とで気候は真逆だけれど…

「山本五十六提督が真珠湾を攻撃したとか、山下将軍がレイテ島を防衛した、という文章はナンセンスである。」(大岡昇平『レイテ戦記』より)

2月に読み終えた本は5タイトル7冊。多くの時間を割いたのは大岡昇平の『レイテ戦記』(中公新書, 2018改版)の第2〜4巻だった。ことに第2巻を読むのに難渋し、一度の週末では読了できずに2週間に分けた。それに続く第3巻はそれぞれ土日の2日間、第4巻は索引…

江戸川乱歩の発禁本「芋虫」は衝撃的/大岡昇平『レイテ戦記』第1巻(中公文庫2018年改版)と特攻隊

昨年(2021年)は読んだ100冊のうち42冊がアガサ・クリスティだった。今年はその比率を減らそう、というより自動的に減ることになる。というのは、ポワロもの長篇の6割(33冊中20冊)とミス・マープルもの長篇の半分(12冊中6冊)を読み終え、短篇集も半分以…