久しぶりにアガサ・クリスティのミステリを取り上げる。
現在の私は作曲家・モーツァルトの生涯とその音楽を追うことに熱中しているが、3年前から熱中していたのがアガサ・クリスティの全ミステリ(アドバンチャーものを含む)を読むことで、昨年末の時点で晩年の7冊を残すのみとなった。その残り7冊の中からクリスティ77歳の1967年に書かれた『終りなき夜に生れつく』(矢沢聖子訳、ハヤカワ・クリスティー文庫, 2011)を読んだ。
昨日(2/3)に一気読みした。徹夜はしなかったが夜更かししてしまい、夕食をとるのがずいぶん遅くなってしまった。
私はクリスティ60歳の1950年に書かれたミス・マープルもの第4作『予告殺人』を非常に気に入り*1、衰えぬ作者の力量に感心したが、作者が70代に入った1960年代の作品にはあまり見るべき作品がなく*2、残念に思っていた。さすがに70代にもなるとクリスティの筆も衰えたかに思われた。
しかしこの作品は非常に良かった。いわゆる「あと味」はめちゃくちゃに悪いが、作品としては文句なしの第一級品だ。
ところが『読書メーター』を見るとこの作品の評判が悪い。なぜかというと、どうやら本作をこき下ろしている読者たちは、全く事前の予備知識なしで読んだのではないかららしいと推測した。本作はほんの少しでも予備知識があると興趣が殺がれる。そのような種類の作品だ。
この作品は江戸川乱歩の死去より遅く成立しているので、乱歩による評価はない。しかしクリスティ攻略本を書いた霜月蒼氏の評価はきわめて高く、クリスティの全ミステリ中の3位に推している。もっとも氏のベストテンには『アクロイド』も『そして誰もいなくなった』も『オリエント急行の殺人』も入っていない。私なら少なくとも前二者は絶対に落とせない*3。
何より、クリスティ自身がベスト作として挙げた自信作だ。
この作品に関しては、とにかく予備知識ゼロの状態で読むに限る。だから前記読書メーターにも、はてなブログで読むことができる本作に関する霜月氏の論評にもリンクを張らなかった。
私は幸運にも予備知識全くなしの状態で本作を読むことができたので、深い感銘を受けた。本書は今週図書館に返さなければならないが、文庫本を買って暇な時に再読したいと思った。そう、この本は私のように幸運な読書体験ができた読者にとっては二度読みしたい気持ちを強く起こさせる作品だ。いや既に余計なことをずいぶん書いてしまったかもしれない。
これで未読のクリスティのミステリは残り6冊になった。今年中に読み終えることができると思うが、『終りなき夜に生れつく』はその中のベスト5に間違いなく入る。おそらくそのあとに未読メアリ・ウェストマコット名義の恋愛小説6冊を読むことになるだろう。
短いが今回はここまで。この作品についてはあまり余計なことは書かないに限る。