KJ's Books and Music

古寺多見(kojitaken)の本と音楽のブログ

2020年1月に読んだ本:カフカ『失踪者』『城』『流刑地にて』、樋口陽一『リベラル・デモクラシーの現在』、島田雅彦『虚人の星』など

今年はどういうわけか年初から仕事がタイトで、1件の記事を書くのにいつも時間がかかるこちらのブログの記事を、年明け以来一度も更新できずにきた。3月半ば過ぎまではこの調子が続くので、1月と2月は「今月読んだ本」を羅列して、とりあえず昨年1月以来続け…

吉田秀和の「晩年のマーラー」評に感銘を受けた

前回も書いた通り、今年は2012年に98歳で亡くなった音楽評論家の吉田秀和を再発見した年だった。 吉田秀和の名前を知ったのは1975年で、NHK-FMで日曜夜の深夜だったか、「名曲のたのしみ」という題の番組で、月の4週のうち3週は「モーツァルト その生涯と音…

大岡昇平と吉田秀和と音楽と

今年(2019年)、河出文庫から吉田秀和(1913-2012)の音楽評論の本がずいぶん文庫化された。98歳まで生きた吉田が遺した膨大な評論から、作曲家や指揮者、ピアニスト別にテーマを絞って新たに編集したものが6タイトルと、2011年に発行されていた『マーラー…

1997年に日本の「階級」を描いた桐野夏生『OUT』

今年(2019年)は松本清張を5冊しか読まなかった。昨年は41タイトル50冊を読んだが、図書館に置いてある、最近発行された文字の大きい清張作品の文庫本はあらかた読み尽くしてしまったためだ。もっとも、未読の清張の長篇はまだ3割くらい残っているのだが。 …

「ハルキスト」たちが「ピアノソナタ第17番 ニ長調 D850」でシューベルトに挫折してしまわないために

前回に続き、村上春樹の『海辺のカフカ』(2002)で言及されて注目されたクラシック曲を取り上げる。今回はシューベルトのニ長調のピアノソナタで、Dで表される「ドイチュ番号」では850番に当たる。 初めに、この曲を含むシューベルトのピアノソナタと村上春…

ベートーヴェンの「大公トリオ」と星新一・村上春樹・吉田秀和、それにシューベルトの変ロ長調トリオ

村上春樹の『海辺のカフカ』(新潮文庫)を読んだが、今回は小説そのものには時折触れる程度にして*1、小説で取り上げられた2曲の音楽である、ベートーヴェンの「大公トリオ」とシューベルトのピアノソナタ第17番(ニ長調 D850)の2曲を前後編で取り上げる。…

新田次郎『強力伝・孤島』『雪の炎』を読む

2週間前に新田次郎(1912-1980)の文庫本を2冊図書館で借りて読んだ。そろそろ返さなければならない。 読んだのは『強力伝・孤島』(新潮文庫)と『雪の炎』(光文社文庫)。読まれるべき本だと私が思うのは前者で、後者は物好きか山好きの方にしかおすすめ…

新田次郎『八甲田山死の彷徨』(1971)と伊藤薫『八甲田山 消された真実』(2018)を読む

偶然の機会によって、新田次郎(1912-1980)の長篇小説『八甲田山死の彷徨』(新潮社,1971)のハードカバー本を入手した。1977年3月の第41刷で、本に「6月全国東宝系一斉公開!」と銘打った帯が掛かっている。たいへんな評判をとった映画だったことは覚えて…

村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は「断ち切られたメビウスの輪」だ

今回はグダグダと書き散らすのはやめて、簡単にまとめて公開しておこう*1。表題の小説を未読の方はこの記事は読まない方が良い。 村上春樹の『騎士団長殺し』を読み、『ねじまき鳥クロニクル』を7年ぶりに再読したあと、同じ作者の『世界の終りとハードボイ…

坂口安吾『不連続殺人事件』ほか、9月上旬・中旬に読んだ本

先月末に読んだ大岡昇平の『事件』に続いて、月初に坂口安吾の『不連続殺人事件』(新潮文庫)を読んだ。今回は基本的にネタバレはごく一部の例外を除いてやらない。 www.shinchosha.co.jp 作品名は以前から知っていたが、昨年(2018年)秋に新潮文庫入りし…

大岡昇平『事件』を読む

純文学の小説家が戦後比較的早い時期に書いたミステリ系小説を2作続けて読んだ。大岡昇平(1909-1988)の『事件』(創元推理文庫2017;『朝日新聞』1961-62年連載時タイトル『若草物語』、単行本初出新潮社1977)と坂口安吾(1906-1955)の『不連続殺人事件…

カズオ・イシグロ『日の名残り』を読む/丸谷才一はこの小説を「誤読」したのか

村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』を再読したあと、本を2冊読んだ。うち1冊は、今月出たばかりの田中雄一著『ノモンハン事件 責任なき戦い』(講談社現代新書)を読んだが、これはあまり良くなかった。 bookclub.kodansha.co.jp この本は昨年(2018年)夏…

再読したらめちゃくちゃ面白かった村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』と「絶対悪」辻政信について

初めにおことわり。この記事は村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』のネタバレが満載です。この小説を未読でかつ読みたいと思われる方は、できればこの記事を読まないで下さい。よろしくお願いします。 前回更新した下記記事を書いたことをきっかけに、村上春…

村上春樹『騎士団長殺し』は音楽の使い方においても『ねじまき鳥クロニクル』をなぞっていた

初めにおことわりしておきますが、この記事には村上春樹の長篇小説『騎士団長殺し』のネタバレが多数含まれています。この小説を未読で、かつ読みたいと思われる方は、この記事を読まない方が良いと思います。 私は村上春樹の小説の良い読み手では全くないが…

吉野源三郎『君たちはどう生きるか』とナポレオンとベートーヴェンと

今年もまた5月頃からこのブログの更新が難しくなってきた。どういうわけか例年5月に忙しくなって余裕がなくなるのだが、今年は新しい元号の呪いでもあるのか、それが6月も7月も続いて現在は体調もあまりよろしくない。病気というわけではないが疲労はずいぶ…

林芙美子『戦線』と藤原彰『餓死した英霊たち』を読む

先々週、某区図書館で興味深い本を見つけたので借りて読んだ。林芙美子の『戦線』だ。林が1938年に朝日新聞の日中戦争・漢口攻略戦の従軍記者として派遣された時に書いた「戦線」に、1940年初めの厳冬期に満州を訪れて書き、実業之日本社が出していた月刊誌…

堀田善衛『時空の端ッコ』を読む

堀田善衛(1918-1998)が筑摩書房のPR誌『ちくま』に1986年から没年の1998年までエッセイを計150篇寄稿していた。それらは、1997年12月号掲載の分まで、同書房から4冊の単行本『誰も不思議に思わない』(1989)、『時空の端ッコ』(1992)、『未来からの挨拶…

「世界三大悪妻」って? - 小宮正安『コンスタンツェ・モーツァルト』を読む

大作曲家・モーツァルト(1756-1791)の妻・コンスタンツェがいわゆる「悪妻」で、ハイドンともう一人の誰か*1と合わせて「大作曲家三大悪妻」などと言われていることは昔から知っていた。しかし、そのコンスタンツェがどうやら日本でだけ「世界三大悪妻」に…

鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(最終回)松本清張「遭難」の創作に協力した登山家は加藤薫だったか

前回に続く連載4回目。馳星周選の『闇冥』(ヤマケイ文庫)に関する連載は、今回が最終回になる。 www.yamakei.co.jp 今回は、第1回で触れた松本清張と加藤薫、つまり同じ「遭難」というタイトルで同じ主人公名の山岳短篇を書いた2人の小説家のかかわりにつ…

鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(第3回)新田次郎「錆びたピッケル」、森村誠一「垂直の陥穽」など

前回からだいぶ間が空いてしまった。馳星周選の『闇冥 - 山岳ミステリ・アンソロジー』に収められた新田次郎の「錆びたピッケル」のヒントになった遭難事故に関する情報がなかなか発見できなかったためだが、ようやくわかった。 闇冥 山岳ミステリ・アンソロ…

鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(第2回)加藤薫「遭難」〜 山で仲間を失った山岳部員の痛恨

前回(鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(第1回)松本清張「遭難」と加藤薫・序説 - KJ's Books and Music)の続き。 闇冥 山岳ミステリ・アンソロジー (ヤマケイ文庫) 作者: 馳星周 出版社/メーカー: 山と渓谷社 発売日: 2019/02/23 メディア: 文庫 この商品…

鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(第1回)松本清張「遭難」と加藤薫・序説

1年前、去年(2018年)3月に、このブログの下記記事にコメントをいただいた。 kj-books-and-music.hatenablog.com いただいたコメントは下記。ブログ管理画面で確認すると、「2018-03-12 22:32:28」のタイムスタンプがある。つまり今から1年1か月前。 通りす…

城山三郎『役員室午後三時』を読む

前の土日(4/6,7)に城山三郎の『役員室午後三時』(新潮文庫1975, 単行本初出新潮社1971)を読んだ。 役員室午後三時 (新潮文庫) 作者: 城山三郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1975/01/13 メディア: 文庫 クリック: 4回 この商品を含むブログ (5件) を…

原武史『皇后考』と『平成の終焉』を読む

新元号が明日(4/1)に発表されるらしいので、その前に公開した方が良いと思って急いで記事を書くことにした。 今月下旬に岩波新書から原武史の『平成の終焉』が出ると知って、長い間積ん読にしてあった同じ原武史の『皇后考』(講談社学術文庫)を読むこと…

星野智幸『呪文』を読む

しばらく前に、私が購読しているブログで下記の文章にお目にかかった。 sumita-m.hatenadiary.com 鴻巣さんは「若い彼らは「顔が青いよ」とおなじように、「その答え、ちがいよ」と言ったりするのだろうか?(たぶんそれはない)」という。でも、それはある…

「長州がつくった憲法が日本を滅ぼすことになる」 〜 城山三郎『落日燃ゆ』を読む

城山三郎の『落日燃ゆ』を読んだ。 落日燃ゆ (新潮文庫) 作者: 城山三郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1986/11/27 メディア: 文庫 購入: 7人 クリック: 94回 この商品を含むブログ (61件) を見る A級戦犯として文官ではただ一人死刑(絞首刑)に処せられ…

早乙女勝元『螢の唄』と東京大空襲

東京大空襲を題材にとったこの小説は3年前に新潮文庫入りした時買おうと思って買いそびれたのだが、東京大空襲の日である3月10日の日曜日に図書館で借りて、翌3月11日(東日本大震災の日)から読み始めて3月13日(大阪大空襲の日)に読み終えた。もとは映画…

星野智幸『ファンタジスタ』を読む

星野智幸の中篇集『ファンタジスタ』(集英社文庫2006)を読んだ。集英社文庫版(2006)は、今時の新潮文庫や講談社文庫や光文社文庫などと違って文字が小さかったが、大きな文字の版が出ていないのでそれは仕方がない。この中篇集には「砂の惑星」(雑誌初…

金子夏樹『リベラルを潰せ』を読む

正直言って国際政治には無知もいいところなのだが、ウラジーミル・プーチンという人間は昔から大嫌いだ。KGBにいた後ろ暗い過去、2006年のリトビネンコ毒殺事件をはじめとする数々の殺人事件にプーチンの関与があったのではないかと疑っていること、さらには…

吉行淳之介の短篇「あしたの夕刊」とつのだじろうの漫画『恐怖新聞』、それに石川淳、ムソルグスキー

下記のアンソロジーを読み終えた。 名短篇、ここにあり (ちくま文庫) 作者: 北村薫,宮部みゆき 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2008/01/09 メディア: 文庫 購入: 7人 クリック: 49回 この商品を含むブログ (64件) を見る これは11年前に出た文庫本だが、…