KJ's Books and Music

古寺多見(kojitaken)の本と音楽のブログ

「伝ハイドン」→「伝レオポルト・モーツァルト」→「アンゲラー作」の「おもちゃのシンフォニー」をBGMにしたNHK「おかあさんといっしょ」のアニメと半世紀以上ぶりに再会した/「アルビノーニのアダージョ」は20世紀の研究家による偽作

 これまで記事にしようと思いながらなかなか書けなかったクラシック音楽関係の暇ネタを放出することにする。

 私が小学生だった1971年頃に、よくNHKの「おかあさんといっしょ」で昔ハイドン作と思われていた時代が長かったらしい「おもちゃのシンフォニー」をBGMにしたアニメーションが流れていたことがあった。私には年少の妹があり、テレビでこの番組がよくついていた。

 その後中学生になって1975年の夏休みにNHK-FMで故千蔵八郎武蔵野音楽大学名誉教授(1923-2010)が解説したクラシック音楽入門の特集が平日の5日間だったか10日間(2週間)のどちらだったかは忘れたが聴いた。この時の印象が強烈で、その後すぐに聴き始めた吉田秀和(1913-2012)の「名曲のたのしみ モーツァルトの音楽とその生涯」とともに私の趣味と嗜好を決定づけた*1。その千蔵氏の番組でだったかどうか、「おもちゃのシンフォニー」が紹介された。実は原作はハイドンではなくレオポルト・モーツァルトの作品だとも解説されたような気もするがさだかではない。現在ではエドムント・アンゲラー(1740-1794)という人の作品だということになっているが、本当にこの人のオリジナルの作品であるかどうかについては異論があるようだ*2。ほぼ間違いないのは番組に「おもちゃのシンフォニー」がかかったことで、私はそれを聴いて、あっ、「おかあさんといっしょ」で流れていたあの曲だと思ったのだった。現在ではクラシックのオーケストラがこの曲を録音してCDなりにして発売する機会はほとんどないと思われるが、ネット検索をかけたらカラヤンが1957年にフィルハーモニア管弦楽団を指揮した録音がYouTubeにあった。下記にリンクする。

 

www.youtube.com

 

 それから半世紀近くが経つ。

 この間ネット検索をかけたら、「おかあさんといっしょ」で流れていたアニメーションに関するQ&Aがいくつか引っかかった。下記は2022年のYahoo! 知恵袋へのリンク。

 

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

 

 以下引用する。

 

ID非公開さん

2022/6/5 22:51

 

45年くらい前の子供向けテレビ番組の中で、ハイドンのおもちゃの交響曲にのせて、折り紙の風車を並べた物ような模様か、幾何学模様のような物が、

あちこちランダムにパクパク開いたり閉じたりするような映像ってありませんでしたっけ?

おぼろげに消えかけている記憶で、そんな映像をうっすらと覚えています。

ナレーションや登場人物はありません。

番組はカリキュラマシーンかなという気がしていますが。

何の番組かお分かりでしたら教えてください。

できればその映像がまた見たいのですが、どこかで見れるでしょうか。

 

ベストアンサー

レンタルおっさんさん

2022/6/8 22:58

 

それ、NH教育だったような記憶があります。

 

質問者からのお礼コメント

 

NHKと教えてくださりありがとうございます。教えてくださったおかげでNHK おもちゃの交響曲と検索して分かった事がいくつかありました。71年頃?の、おかあさんといっしょの、幼児のためのアニメーションというコーナーで作られた物で、もう映像は残っていないようです。

夢のような記憶なので、夢ではない事が分かってとても嬉しいです。ありがとうございました!

 

お礼日時:2022/6/10 14:09

 

 Yahoo! 知恵袋には上記の12年前の2010年にも同様のQ&Aがあった。

 

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

 

 以下引用する。

 

joh********さん

2010/8/14 18:57

 

35~40年くらい前NHKの教育テレビで、”おもちゃの交響曲”に合わせて四角や三角が人の形になったりするアニメーションがありましたよね?

35~40年くらい前NHKの教育テレビで”おもちゃの交響曲”に合わせて四角や三角が人の形になったりするアニメーションがありましたよね?非常に短いアナログのアニメーションで、おもちゃの交響曲の第一楽章と第三楽章があったような気がします。第三楽章は鳥が、人の体をくわえて逃げていくような内容で、インパクトがあったのでいまだに記憶に残っています。先日家族でその話が出て、なんとかその映像が見たくなり、you tubeで探したのですが、見つかりませんでした。

みなさん記憶にありませんか?どこか見れるサイトはありませんか?

ベストアンサー

 

エルガーさん

2010/8/16 16:42

 

私もそのようなアニメ、すごく印象に残っています。鳥とか、三角形や四角形とか万華鏡のように出てきて、おもちゃの交響曲がそのアニメにすごくはまっていたんですよね。私も今でもこの交響曲を聴くと、じつはそのアニメを思い出すのですよ。(笑い)

 

時期としては昭和46年(1971年)くらいかな、たしか「みんなの歌」ではないのですが、「みんなの歌」とか子供向けの番組の合間にやっていたような…それも夕方頃だったかなあ…。

 

ユーチューブでもないかもしれませんし、もうNHKの“資料館”くらいの世界かもしれませんね。当時はおそらく番組として載っていたはずですから、昔の新聞の縮刷版などの番組表に、そのアニメの番組が載っているかもしれません。それでそれが番組クラスのものであれば、NHKに聞いてみれば、何か収穫があるかもしれませんね。

 

自分も当時子供でして、そのアニメとか、夕方6時からの「こどもニュース」とその時のBGMとか、6時以降の「ねこじゃら市の11人」とか、「アバラ」とかいう犬が出てくるドラマなんて、記憶にあります。

 

話しがずれて恐縮ですが、一番強烈だったのは、これもNHKですが、ニュースか天気予報の合間か何かに、こんなこわいCM(というかキャンペーン・フィラー)がありました。

あらすじは、不気味なBGMとともに子供が池で一人で遊んでいて、そのうち、池にその子が遊んでいた遊具が浮かんでいて、「けんちゃん、どこいったのかしら」という母の声という設定で、子供の水遊びは注意しましょう、なんていうテロップがすうっとでてくるのです。いまのACなんで問題にならないくらいこわかったです。

 

 ベストアンサーの最後に書かれている「こわいCM」は全く知らない。

 しかし、1971年頃にNHKの「おかあさんといっしょ」で流れていた「おもちゃのシンフォニー」つきのアニメーションはネット検索にヒットした。YouTubeではなくTikTokにあった。下記にリンクに示す。

 

www.tiktok.com

 

 質問者の方は「おもちゃの交響曲の第一楽章と第三楽章があったような気がします」と書かれているが、BGMに使われているのは第2楽章と第3楽章だ。同じ音楽が加速しながら演奏される第3楽章は印象的だ*3

 でも、不思議なことに1975年にNHK-FMでこの曲を聴いた時には、第1楽章にも聴き覚えがあった。それで思ったのは、もしかしたらこのアニメーションに別のバージョンがあったのではないかということだ。つまりもう1つは第1楽章をバックにしていたのではないか。こう考えてみると、そういえば昔からアニメーションには2種類あったって思ってなかったっけ、とも思う。

 いずれにせよ1971年頃のアニメーションとのことだから、半世紀以上経ってから再会したしたことになる。長い間生きていたらこんなこともあるのだなあ。

 以下は長い余談。おもちゃのシンフォニーの本当の最初の作者はパパ・ハイドンでもヴォルファール(ヴォルフガングの愛称。間違っても「アマデウス」ではない)のステージ・パパだったレオポルトでもなさそうだが、この時代には偽作(贋作)や疑作が多かった。モーツァルト(ヴォルファールの方)の作品がどうか疑わしいとされる曲の中には、当時のイタリアの人気作曲家だったルイジ・ボッケリーニ(1743-1805)の某作に似ていることが疑われた理由だったが、そのボッケリーニの曲自体が別人の作品(「類似ボッケリーニ」だった?)だったことが判明した例などもあるそうだ。もちろん、似ていたのが偽作だったからといって「伝モーツァルト」の作品が真作とされるようになったわけではない。

 私は1976年からバッハをはじめとするバロック音楽も聴くようになったが、その頃から別人の作品ではないかと疑っていたのが「アルビノーニアダージョ」だった。というのは、有名なこの作品を知る前に、トマゾ・アルビノーニ(1671-1751)の「オーボエ協奏曲ニ短調作品9-2」を聴き、その第2楽章アダージョに感心したことがあったのだが、そのイメージと「アルビノーニアダージョ」との印象が全く違っていたからだ。

 まずオーボエ協奏曲の方は下記。

 

www.youtube.com

 

 第2楽章アダージョは4分12秒くらいから始まる。アルビノーニはイタリアの人気オペラ作曲家だったらしいがオペラの楽譜は大部分が逸失し、現在では作品番号つきで印刷された器楽曲が主に聴かれる。しかし私の知る限り、この作品9-2のアダージョが飛び抜けて印象に残り、アルビノーニの他の作品でこれに匹敵する曲に出会ったことはない。上記リンクは現代音楽の作曲でも知られるハインツ・ホリガーオーボエとイ・ムジチ合奏団の演奏で、昔からこれが定番だった。

 一方「アルビノーニアダージョ」は下記。カラヤン指揮ベルリン・フィルの演奏だが、この元ナチ党員は本当に雑食性の人だったんだなあと改めて思う。こちらのYouTubeは24万回も再生されていて今も大評判のようだが、私には「何だ、このムードミュージックは」としか思われない。

 

www.youtube.com

 

 そういえばこの「アダージョカラヤン」というのはずいぶんな人気盤だったが私は持っていない。嘆かわしいことにこのCDで「アルビノーニアダージョ」の直前に収められているのがモーツァルトのK287のディヴェルティメント変ロ長調の第4楽章で、これはカラヤンの指揮にしては珍しく、決して悪くはないのだが、私が持っているのはジェフリー・テイト指揮イギリス室内管弦楽団の演奏で、テイト盤ではソナタ形式のこの楽章の提示部ばかりか展開部から再現部までもリピートしているのでこの楽章に10分以上をかけているので、このシューベルトばりの「天国的な長さ」の演奏の方が良いと思う。「アダージョカラヤン」で「アルビノーニアダージョ」のあとに入っているのはベートーヴェンの第7交響曲の第2楽章だが、この楽章はアレグレットであって決してアダージョではないはずだ。

 カラヤンの悪口ばかりになってしまったが、アルビノーニアダージョが偽作であることが正式に判明したのは1990年のことだったそうだ。以下Wikipediaより。

 

アダージョ ト短調』は、レモ・ジャゾットが作曲した弦楽合奏オルガンのための楽曲。弦楽合奏のみでも演奏される。1958年に初めて出版された。

この作品は、トマゾ・アルビノーニの『ソナタ ト短調』の断片に基づく編曲と推測され、その断片は第二次世界大戦中の連合軍によるドレスデン空襲の後で、旧ザクセン国立図書館の廃墟から発見されたと伝えられてきた。作品は常に「アルビノーニアダージョ」や「アルビノーニ作曲のト短調アダージョ、ジャゾット編曲」などと呼ばれてきた。しかしこの作品はジャゾット独自の作品であり、原作となるアルビノーニの素材はまったく含まれていなかった[1]

大衆文化における「アダージョ」の利用[編集]

雄渾多感な旋律と陰翳に富んだ和声法ゆえの親しみやすい印象から広まり、クラシック音楽の入門としてだけでなく、ポピュラー音楽に転用されたり、BGMや映像作品の伴奏音楽として利用されたりした。

また、日本や欧米では葬儀のとき最も使われている曲の一つでもある。ドアーズのアルバム『アメリカン・プレイヤー』収録の「友人同士の宴」では、『アルビノーニアダージョ』の編曲と思しき楽曲に乗せてジム・モリスンが詩の朗読を行なっており、イングヴェイ・マルムスティーンの『イカロス組曲』作品4は、もっぱら『アルビノーニアダージョ』を下敷きにしている。DJティエストTiësto)はアルバム『Parade of the Athletes』(2004年アテネオリンピック開会式に使用され、日本選手団の入場の際に流れていた)において、『バーバーのアダージョ』とともに『アルビノーニアダージョ』を用いた。ルネッサンスは、『アルビノーニアダージョ』に歌詞をつけて「Cold is Being」という曲にしている(アルバム『運命のカード』に収録)[2]

オーソン・ウェルズ1962年の映画『審判』(The Trial)やルドルフ・トーメRudolf Thome)監督の1970年の『Rote Sonne』、『ローラーボール』(1975年制作版)やメル・ギブソン主演の1981年『誓い』(Gallipoli)、2015年成島出の映画『ソロモンの偽証 前篇・事件[3]といった映画の伴奏音楽ないしはテーマ曲として利用されている。

1992年5月、ボスニア内戦で包囲されたサラエボ市内の市場裏で食料品を買おうとしていて砲弾の直撃で亡くなった22人の民間人死者を追悼し、その翌日から地元のチェリスト、ヴェドラン・スマイロヴィッチが「アダージョ」を22日間その場で演奏した。このエピソードを元にした小説、スティーヴン・ギャロウェイ『サラエボチェリスト』が書かれた。[4]

 

URL: アルビノーニのアダージョ - Wikipedia

 

 幸か不幸か、私は「アルビノーニアダージョ」が好きだったことは一度もなかった。偽作であることが確定していたとは今回のネット検索で知ったばかりだが、さもありなんとしか思わなかった。

*1:このうち吉田秀和の番組はモーツァルトの生涯に沿って作品を順次紹介していくもので、第1期は1974年1月に始まって1980年1月に終わった。その後モーツァルトのレコードが増えて、第1期には紹介できなかった作品も紹介できるようになったとの名目で、同じ趣向の放送が1980年4月から1987年1月までもう一度行われた。以前にも何度か書いたことだが、私が驚いたことに、この第2期の放送をほぼ毎回エアチェックした上、そのカセットテープを保存されている方がいて、2017年から現在に至るまで、録音し損ねた何度かの回を除いて第1回から1983年4月放送分までをYouTubeにアップロードされているので、今でも吉田氏の声を聴き直すことができる(それ以降の放送分も徐々にアップロードされると思われる)。NHKにはおそらく第1期の初めの頃の録音は残っていないだろうが、一般家庭にもラジカセが普及していた第2期の放送あたりは全部NHKに残っているのではないかと思われるが、そのあたりは明らかにされていない。吉田氏の没後に時々かつての放送の一部が再放送されたことがあるようなので、ある時期以降は録音が残っていることは確実だろう。しかし私が聴き始めた1975年の8月だか9月だかはわからないけれども、その時期となると残っていない可能性の方が高そうだ。第2期は非常に幸運なことに今でも初回から聴けるけれども、第1期は最終回に至るまでYouTube等で聴き直したことは一度もない。

*2:この件の論考に関しては下記URLを参照されたい。http://jymid.music.coocan.jp/kaisetu/kindersym.htm

*3:なおNHK版(?)ではメロディーの途中で加速しているが、原曲では同じ音楽がテンポを変えて、あとほど速く3度繰り返される。