KJ's Books and Music

古寺多見(kojitaken)の本と音楽のブログ

2021-01-01から1年間の記事一覧

2021年12月に読んだ本;斎藤幸平『人新世の「資本論」』、東野圭吾『むかし僕が死んだ家』とアガサ・クリスティ『カーテン』と浦沢直樹『MONSTER』のトライアングル、そして佐藤優の駄本『生き抜くためのドストエフスキー入門』など

今年(2021年)も昨年に続いて思うような読書はできなかった。昨年は66冊*1しか読めなかった。ちょうど100冊を読みはしたものの、半分以上が10年前には見向きもしなかったミステリだった。うちアガサ・クリスティ作品が42冊(冒険ものなどを含む)だった。昨…

アガサ・クリスティ『杉の柩』を読む 〜 個の時代へと拡散していく流れにクリスティ作品の「類型の人物像」が対応しきれなくなったとの山野辺若氏の指摘が興味深い

1940年にアガサ・クリスティの『杉の柩』に、当時13歳か14歳だったプリンセス・エリザベスの未来の良人(おっと)選びの話が出てくることを『kojitakenの日記』に書いた。 kojitaken.hatenablog.com 上記記事を書いた時点では半分くらいしか読んでいないが、…

松本清張『馬を売る女』に収録された「山峡の湯村」の舞台のモデルは岐阜県の秋神温泉らしい/「潜る」を「かずく」と言う地域はどこか

光文社文庫から順調に出ていた「松本清張プレミアム・ミステリー」の刊行が、このところあまり出なくなった。それも、松前譲氏が執筆している巻末の解説文で刊行予定が予告された作品が、従来のラインアップに古い文庫本を並べている出版社との交渉がうまく…

ショパンコンクール、「日本人最高位受賞」には関心がないが受賞者の髪型を「サムライヘア」と呼ぶのは止めてほしい/「2番を弾いた優勝者」になり損ねたマルタ・アルゲリッチ

5年に1度開かれるショパン国際ピアノコンクールは日本でなぜか人気がある。すぐに頭に浮かぶのはスタニスラフ・ブーニンで、彼が優勝した1985年のショパンコンクールの様子がNHK特集で放送されたことが大きく影響し、日本で大人気になった。コンクール開催当…

クリスティ『ポアロのクリスマス』にまたも完敗。前作『死との約束』に続いて「連続完封」を喫した

アガサ・クリスティの『ポアロのクリスマス』(1938)。また犯人を当てられなかった。一頃クリスティものは連戦連勝だったが、前作『死との約束』(1938)に続く連敗。それも全く同じようなパターンでやられた。プロ野球中日ドラゴンズの柳裕也と大野雄大に…

すぎやまこういち死去/すぎやま作曲のキャンディーズ「ハート泥棒」は「年下の男の子」以後では売り上げが最少だった

すぎやまこういちが死んだ。 ドラクエは一度もやったことがないので彼の「音楽」はよく知らない。キャンディーズは私自身はそんなに思い入れはないが、ヤクルトが優勝した1978年に日本シリーズをやった(やらされた)後楽園球場で、キャンディーズは4月4日に…

"Roman holiday"(ローマの休日?)の本当の意味を教えてくれたアガサ・クリスティ『死との約束』は読者を選ぶかもしれないが「隠れた名作」だ

はじめに、今回はミステリ作品の犯人当てに関するネタバレを極力避ける努力をしてみた。だから今回は作品を未読の人は読まないでいただきたいとは書かない。但し、記事から張るリンクの中にはネタバレが含まれるかもしれない。また、ネタバレは極力避けたと…

『容疑者Xの献身』再々論〜東野圭吾は「出題を理解できない読者」を挑発していた/A.A.ミルン『赤い館の秘密』/江戸川乱歩がクリスティの『予告殺人』を激賞した理由/小説と戯曲・映画で異なる『そして誰もいなくなった』の結末

江戸川乱歩が選んだミステリ十傑のひとつであるA.A.ミルン(1882-1956,『クマのプーさん』の作者として有名)の『赤い館の秘密』(創元推理文庫, 2017年の山田順子による新訳版)を読んだ報告から始める。今からちょうど100年前の1921年の作品で、アガサ・ク…

E・C・ベントリー『トレント最後の事件』(1913)は名作。『アクロイド殺し』が好きな人はきっと気に入る

このところ、戦前から戦後初期にかけての日本における英米、特にイギリスのミステリの受容史への関心が高まっている。その一環として、2017年に創元推理文庫から45年ぶりに改版されたE・C・ベントリーの『トレント最後の事件』(1913)を読んだ。これは新訳…

フィルポッツ『赤毛のレドメイン家』、クリスティ『予告殺人』『シタフォードの秘密』、横溝正史『蝶々殺人事件』、坂口安吾「推理小説論」を読む(ネタバレ若干あり)

本記事には、表題作その他のミステリのネタバレが若干含まれているので、これらの作品を未読かつ読みたいと思われる方は、本記事を読まれない方が賢明かと思う。 最近多く読んでいるアガサ・クリスティ(29冊)から少し離れて、同時代の人であるクロフツが19…

クロフツの倒叙推理の名作『クロイドン発12時30分』とアガサ・クリスティの某作を立て続けに読んだら、トリックがそっくりだった(驚)

19〜20世紀に推理小説の本場だったアメリカとイギリスで、20世紀半ば頃の日本の「本格推理小説」が「静かなブーム」とのことだ。 www.newsweekjapan.jp 日本の「本格推理小説」の開祖は江戸川乱歩で、1923年に発表された「二銭銅貨」がその記念すべき第一作…

2021年5〜7月に読んだ本; 吉見俊哉『東京復興ならず』/カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』/成長を続けたアガサ・クリスティと衰退の一途をたどる東野圭吾

5月の連休明けからずっと忙しく、一昨年以来2年半の間、弊ブログを最低月1回更新してきた記録が途切れるピンチになった。そこで、このところ読んだ本(大半が小説で、うち半分以上がミステリだが)をいくつか取り上げて感想を軽くまとめてみる。 まず、小説…

クリスティ『邪悪の家(エンド・ハウスの怪事件)』と『エッジウェア卿の死』/ハヤカワ「クリスティー文庫」の「裏表紙」は読むな!!!

はじめにおことわりしますが、今回の記事はタイトルの2作の他、『アクロイド殺し』などのアガサ・クリスティ作品のネタバレが全開なので、これらのミステリ小説を未読でそのうち読みたいと想われる方は読まないで下さい。 5月の連休明け翌週の月曜日(5/10)…

黒木登志夫『新型コロナの科学』を読む(第2回)/日本の新型コロナ対応の「ベスト10」と「ワースト10」

前回の続き。引き続き黒木登志夫著『新型コロナの科学』(中公新書2020)より。 本書第4章が「すべては武漢から始まった」、第5章は「そして、パンデミックになった」、第6章は「日本の新型コロナ」、同第7章は「日本はいかに対応したか」とそれぞれ題されて…

黒木登志夫『新型コロナの科学』を読む(第1回)/日本では感染症の分野が「選択もされず集中もされず」、その結果新型コロナ対応に立ち遅れた

連休中に本を7冊ほど読んだが、その中から黒木登志夫著『新型コロナの科学 - パンデミック、そして共生の未来へ』(中公新書2020)を何度かに分けて取り上げる。 新型コロナの科学|新書|中央公論新社 上記中公のサイトから、本書の概要を引用する。 新型コ…

東野利夫『汚名 -「九大生体解剖事件」の真相』(文春文庫)を読む(改題・再掲)

東野利夫(とうの・としお)さんの訃報に接した。訃報は神子島慶洋氏の下記ツイート経由で知った。 https://twitter.com/kgssazen/status/1382468885048291328(注:リンク切れ) 九大が手を染めた米軍捕虜の生体解剖は、遠藤周作の小説「海と毒薬」のモデル…

『アクロイド殺し』の○○トリックは「史上初」ではなく40年前にチェーホフが使っていたが「イギリスで初めて麻雀シーンを登場させた小説」だったらしい

前回取り上げたアガサ・クリスティの『アクロイド殺し』で一番驚かされたのは、まさか半世紀前にクラスメートの心ないネタバレによって最後まで読み切れなかったあの本が、最近になって犯人を知らないままに読んだ同じクリスティの何冊かの本よりもはるかに…

犯人を知っていて読んでも抜群に面白かったアガサ・クリスティの『アクロイド殺し』

初めにおことわりしておきますが、表題作を未読の方はこの記事を読まないようにお願いします。それどころか検索語「アクロイド」でネット検索をかけることも絶対にお薦めできません。露骨なネタバレは行いませんが、それでも容易に真相の見当がついてしまう…

岡田暁生『音楽の危機 - 《第九》が歌えなくなった日』を読む 〜 ベートーヴェン「第9」が孕む「排除」と「疎外」を克服できる日は来るか

3月はあと3日を残しているが、今日まで本を10冊読んだ(但し、数はミステリー小説の飛ばし読みによって水増しされている)。その中でもっとも強い印象を受けたのは、下記『kojitakenの日記』の記事で言及した吉田徹の『アフター・リベラル』(講談社現代新書…

東野圭吾『真夏の方程式』には松本清張『砂の器』との共通点もあるが、本質は『容疑者Xの献身』を焼き直した反倫理的小説

初めにお断りしておくが、本エントリもいつものようにネタバレ満載なので、(私はお薦めしないが)表題作を読みたいと思われる方がもしおられるなら、この記事は読まないでいただきたい。 やはり周庭氏は東野圭吾を読まない方が良いのではないか。また本邦の…

添田孝史『東電原発事故 10年で明らかになったこと』(平凡社新書)が告発する事故前の東電の悪行

今日(3/11)で東日本大震災と東電原発事故からちょうど10年になる。 先月下旬に下記の本を読んだ。 www.heibonsha.co.jp 何よりもタイトルが良い。あの原発事故の略称を「福島原発事故」ではなく「東電原発事故」としている*1。弊ブログでは2011年のある時…

東野圭吾の長篇『聖女の救済』を読んで、松本清張の短篇「捜査圏外の条件」を思い出した

私が不思議でたまらないのは、東野圭吾が日本のみならず中国や韓国で人気があるらしいことだ。その中国の息のかかった香港当局に逮捕され、有罪判決を受けて収監された周庭氏も、村上春樹とともに東野圭吾の小説を読むという。 Admin:旧正月の間に友人が新…

直木賞受賞当時「本格推理」や「純愛」をめぐる激論を巻き起こした東野圭吾『容疑者Xの献身』を改めて批判する

東野圭吾の『容疑者Xの献身』に対する批判はこれまでにも何度も書いたが、一度まとめておいた方が良いだろうと思ってネット検索をかけたところ、同書のハードカバー版が刊行されて直木賞を受賞し、評判をとった頃に書かれた、強く共感できる批判を2件みつけ…

アガサ・クリスティ『ミス・マープルと13の謎』(深町眞理子訳、創元推理文庫)を読む

前回に続いてアガサ・クリスティを取り上げる。最初に書いておくと、クリスティのミス・マープルものの短篇集である創元推理文庫の『ミス・マープルと13の謎』(深町眞理子訳, 2019)とハヤカワ文庫の『火曜クラブ』(中村妙子訳, 2003)は同じ作品の翻訳だ…

アガサ・クリスティ『ゴルフ場殺人事件』と東野圭吾『容疑者Xの献身』の感心しない「共通点」

初めにおことわりしますが、このエントリにはアガサ・クリスティ(1890-1976)及び東野圭吾の推理小説に関するネタバレが思いっ切り含まれているので、それを知りたくない方は読まないで下さい。 今年(2021年)に入ってクリスティ作品を4冊読んだ。 実は私…

沼野雄司『現代音楽史 - 闘争しつづける芸術のゆくえ』(中公新書)を読む

沼野雄司『現代音楽史 - 闘争しつづける芸術のゆくえ』(中公新書,2021)を読んだ。 https://www.chuko.co.jp/shinsho/2021/01/102630.html 私が聴く音楽は、武満徹(1996年没)を除けば、新しくてもせいぜい(福田康夫が好きな)バルトーク(1945年没)とか…