KJ's Books and Music

古寺多見(kojitaken)の本と音楽のブログ

小泉悠『ウクライナ戦争』(ちくま新書,2022)を読む

今月は新しく読み終えた本が7冊。少し元のペースに戻したが、それでも2010年代に年間100冊をめどにしていた頃には戻っていない。 読み終えた本の中に小泉悠の『ウクライナ戦争』(ちくま新書,2022)がある。 www.chikumashobo.co.jp 今頃になってやっと読め…

読み終えたばかりの鈴木大介『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)が講談社から販売中止になり、同社のサイトに回収の告知がされていた

昨日(5/26)読み終えた鈴木大介『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)が講談社から販売中止になり、同社のサイトに回収の告知がされていた。 bookclub.kodansha.co.jp この本の読後感を一言で書くと、正直言って甚だしく「期待外れ」の本だったが、そ…

ディケンズ『二都物語』(1859)を加賀山卓朗訳の新潮文庫新訳版(2014)で読む/ネタバレを嫌うなら中野好夫訳新潮文庫旧版(1967)は絶対に選んではいけない

黄金週間最後の日曜日から金曜日までかけて、チャールズ・ディケンズの『二都物語』(加賀山卓朗訳, 新潮文庫版2014)を読んだ。 www.shinchosha.co.jp 最初に大事なことを書いておくと、今回の読書では非常な幸運に恵まれた。というのは、本作の末尾に非常…

小松左京『日本沈没』(1973) を読む

連休後半に小松左京(1931-2011)の『日本沈没』(1973)を2020年のハルキ文庫版上下巻で読んだ。初出は光文社のカッパ・ノベルス。図書館本で読んで、今日が返却日なので簡単にメモを残しておく。 この本は少年時代からいつか読もうと思いつつ長年放置して…

2011年に自死した中村とうようは執拗に坂本龍一を批判し続けたらしい

坂本龍一の訃報に接して1か月以上が経ったが、未だに私の主たる関心事は音楽、音楽史及び音楽の受容史であり続けている。 弊ブログの読者には政治に関心がある方が多いと思うので、それに絡めて書くと、私は1980年代初めに当時の国鉄吉祥寺駅*1に付随した商…

【ネタバレあり】小泉喜美子『弁護側の証人』(1963) は「映像化絶対不可能」との宣伝文句だが、1980年にNHKのドラマ『冬の祝婚歌』で映像化されている

4月に読んだ本は5冊だけだったが、うち4冊がミステリで、しかもその中には批判する目的でしか読まない東野圭吾作品が1つ含まれている。昨年来の多忙の疲れが新年度に入ってもまだ残っている体感がある。だから打率1割4分台にまで落ちてスワローズ7連敗の戦犯…

伊藤潤二のホラー漫画『中古レコード』に出てくる「ポーラ・ベルのスキャット」のモデルはスウィングル・シンガーズがスキャットで歌うバッハのパルティータ第2番のシンフォニアなのか?

1回飛んでしまったスウィングル・シンガーズの記事に今回で区切りをつけたい。 バッハをスキャットで歌って60年前に一世を風靡した当時フランスのグループ、スウィングル・シンガーズのデビューアルバムに、バッハのチェンバロ(ハープシコード)のためのパ…

坂本龍一と父・坂本一亀と大岡昇平と

『kojitakenの日記』に公開した島田雅彦を批判する記事を書くために大岡昇平の『成城だより』全3冊(中公文庫)を調べていたら、同じサ行の姓の坂本龍一への言及が何箇所かあった。 大岡の日記に初めて坂本が登場するのは1980年5月8日。当時大岡71歳、坂本28…

YMOのデビューアルバム冒頭に収録された「コンピューター・ゲーム “サーカスのテーマ”」に出てくる葬送行進曲が懐かしかった/バッハの音楽に頻出する不協和音のこと/シェーンベルクの妻と画家の不倫&画家の自殺の痛手から無調音楽が生まれた

先週月曜日(4/10)に公開した下記記事に続いて、坂本龍一とYMO、それにスウィングル・シンガーズによるジャズのバッハなどの話をする。 kj-books-and-music.hatenablog.com 歳をとることの最大のメリットは、生きてきた間に起きたいろいろな変化を思い起こ…

バッハの音楽を「ダバダバ」で歌って1960年代に一世を風靡したスウィングル・シンガーズについて

亡くなった坂本龍一がバッハに傾倒していたことから、昨日はバッハをジャズのアカペラ・ヴォーカル・グループであるスウィングル・シンガーズがスキャットの歌唱法(歌詞なしの「ダバダバ」)で歌った動画(あるいは静止画と音声)をずっとYouTubeで視聴して…

東野圭吾の著作が1億部突破 「容疑者Xの献身」は約300万部(朝日)(ネタバレあり)(呆)

今回は短い記事。ミステリのネタバレを含むためにメインブログの『kojitakenの日記』ではなくこちらで取り上げる。 あの「稀代の悪書」が300万部、その「作品」を含む著者の本が1億部とは、世も末だな。 以下朝日新聞デジタルより。 www.asahi.com 東野圭吾…

東野圭吾『沈黙のパレード』はアガサ・クリスティへのできそこないのオマージュ。湯川学と一緒にされたのではエルキュール・ポワロに失礼。理系トリックは容易に見破れるし、最後には湯川の『容疑者X』への理不尽な同情論まで出てきやがった(怒)

初めにお断りしておきますが、本記事はタイトルの東野圭吾作品のほか、同じ東野の『容疑者Xの献身』、それにアガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』及び『スタイルズ荘の怪事件』のネタバレを含みます。さらにタイトルからも明らかな通り筆者は大のア…

三十数年ぶりにバッハの「ゴルトベルク変奏曲」にはまった(後編)/第30変奏「クォドリベット」は2つの古い民謡「キャベツとかぶ」と「長いことご無沙汰だったね、さあおいでおいで」の旋律とバッハの自虐ネタで閉じられ、美しいアリアが帰ってくる

前回に続く、ゴルトベルク変奏曲の記事の後半。 今回の記事を書くためにかけたネット検索で、バッハがゴルトベルク変奏曲を作曲するヒントになったと思われるドイツ北部・リューベックの作曲家、ブクステフーデの「アリア『ラ・カプリッチョーザ』による変奏…

三十数年ぶりにバッハの「ゴルトベルク変奏曲」にはまった(前編)/第15変奏はキリストと十字架を象徴し、第16変奏はキリストの復活を告げる序曲(ピアニスト・高橋望氏)

AppleによるとMacの寿命は4年らしいが、2009年Lateに製造された21.5インチのiMacを2010年6月頃に買って12年半も使ってしまった。ここ数年ははめちゃくちゃな動作の遅さになっていたし、ハードディスクの寿命(今でも耐用年数は5年くらいとされているらしい)…

岸田文雄首相の思わぬ“挫折”…正月休暇用に購入した『カラマーゾフの兄弟』を1巻で投げ出していた! (Smart FLASH)

『kojitakenの日記』に、連日立民代表の泉健太をこき下ろす記事ばかり書いてきたが、日本国総理大臣にして自民党総裁の岸田文雄も泉と同じくらい大嫌いだ。その岸田がますます嫌いになる一幕があった。岸田は年末に東京都心の八重洲ブックセンターで15冊の本…

黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』(中公新書, 2002)を読む

今年後半は仕事に割かざるを得ない時間が多すぎて閉口した。9月には弊ブログの更新回数が一桁だったし、更新回数を増やした10月と11月は読んだ本がそれぞれアガサ・クリスティのミステリ1冊ずつという惨状。年末年始も来年早々の仕事のために一定の時間を割…

ベートーヴェンの「皇帝協奏曲」と「告別ソナタ」にはそっくりの箇所がある。その謎を解いてみた

ベートーヴェンの皇帝協奏曲(ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73)は亡父がよくレコードをかけていたので、昔からよく耳になじんでいた。 その後自分でもベートーヴェンを含むクラシック音楽を聴くようになったが、私の一番のひいきは最初はモーツァルトで、…

2022年8月に読んだ本 〜 アガサ・クリスティー『葬儀を終えて』(ハヤカワ文庫・新訳版)、黒木登志夫『変異ウイルスとの闘い』(中公新書)

8月は非常に忙しくて本もまともに読めなかった。しかし2019年1月以来の43か月連続更新が途切れるのも癪なので、今月読んだたった2冊の本の書名を挙げておく。 1冊目は、昨年1月以来20か月連続で読んでいるアガサ・クリスティの『葬儀を終えて』。一昨年にハ…

中河原理という音楽評論家を知っていますか。氏は統一教会の機関紙『世界日報』に音楽時評を書いていた元朝日新聞記者

下記ツイートを見てふと「中河原理」の名前を思い出したのだった。 岡田克也、枝野幸男、安住淳氏が「世界日報」に登場したことがあったとは知らなかった。立憲民主党が統一教会問題にすぐに反応できなかったのは、こうした背景があったからなのか。与党と対…

中北浩爾『日本共産党 - 「革命」を夢見た100年』を読む - (1) 日本共産党の「民主集中制」の問題点

本記事は、当初『kojitakenの日記』の下記記事の後半部分として書き始めていたものだ。 kojitaken.hatenablog.com 以下、今年(2022年)5月に刊行された中北浩爾『日本共産党 - 「革命」を夢見た100年』(中公新書)を参照しながら、日本共産党の民主集中制…

本多勝一『アムンセンとスコット』(朝日文庫)は、本文もさることながら山口周の解説文が非常に示唆的

かつての朝日新聞のスター記者にして、1992年以降は『週刊金曜日』の創設者として知られる本多勝一が1980年代に書いた『アムンセンとスコット』(単行本初出は教育社,1986)が昨年末に朝日文庫入りした。それを買い込んで積ん読にしていたが、読み始めたら面…

ポーより早く探偵小説の原型を発表した(?)ディケンズ『オリバー・ツイスト』/後年の作品の萌芽を多く含む村上春樹『1973年のピンボール』

連休中にチャールズ・ディケンズ(1812-70)の長篇『荒涼館』(岩波文庫2017, 全4冊=原著1852-53)を読んだ余勢を駆って、同じ著者の有名作品ながら読んだことがなかった『オリバー・ツイスト』(原著1837-39)を2020年に出た光文社古典新訳文庫で読んだ。 …

チャールズ・ディケンズ作(佐々木徹訳)『荒涼館』(全4冊・岩波文庫)を読む

読み終えてから少し時間が経ってしまったが、休日が多かった今年の黄金週間に、チャールズ・ディケンズ(1812-1870)の『荒涼館』全4冊(岩波文庫,2017)を読んだ。訳者は佐々木徹(1956-)で、図書館で借りて読んだ。 www.iwanami.co.jp www.iwanami.co.jp …

「翼をください」(赤い鳥、1971)は1977年に高校の音楽教科書で初めて知った

NHKの朝ドラなど見なくなってから四半世紀が経つが*1、現在放送中の「ちむどんどん」に、1971年の沖縄で「翼をください」が歌われていたのに違和感を持ったと書かれた記事があることを、下記ブログ記事経由で知った。 sumita-m.hatenadiary.com 記事の前半は…

保守野郎・エルガーが編曲した「ジェルサレム」が英労働党で愛唱され、左派人士・ホルストの「ジュピター」に歌詞をつけた愛国歌が右翼ネオリベ政治家・サッチャーの葬式で歌われていた

前回に続いてイギリスの作曲家、エドワード・エルガーとグスターヴ・ホルストとイギリス二大政党の話。 sumita-m.hatenadiary.com 「威風堂々」に対して、労働党の愛唱歌は「ジェルサレム」。今回書きたかったのはこの「ジェルサレム」の方なのだが、その余…

行進曲「威風堂々」で有名なエルガーは、自らの曲を保守党以外には使わせなかったつまらない保守作曲家だった。しかも「威風堂々」につけられた歌詞には、領土拡大を礼賛する帝国主義的な一節が含まれている。まるでプーチンの応援歌だ

私は2014年にコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ全集を小林司・東山あかね訳の河出文庫版で読み、昨年1月以来アガサ・クリスティの全ミステリ読破を目指して読み続けている。後者については今月もミス・マープルもの長篇第7作の『パディントン発4時50分…

東野圭吾『白夜』(1999)は作者最高傑作の「暗黒小説」かも/新田次郎『山が見ていた』/アガサ・クリスティ『死が最後にやってくる』

今年の3月はあまり暇がなかった上にちょっとしたトラブルもあった散々な月だったが、2月24日に始まったウクライナ戦争で思い出していたのは先月読み終えた大岡昇平の『レイテ戦記』だった。熱帯のフィリピン・レイテ島と冬季の北の国とで気候は真逆だけれど…

「山本五十六提督が真珠湾を攻撃したとか、山下将軍がレイテ島を防衛した、という文章はナンセンスである。」(大岡昇平『レイテ戦記』より)

2月に読み終えた本は5タイトル7冊。多くの時間を割いたのは大岡昇平の『レイテ戦記』(中公新書, 2018改版)の第2〜4巻だった。ことに第2巻を読むのに難渋し、一度の週末では読了できずに2週間に分けた。それに続く第3巻はそれぞれ土日の2日間、第4巻は索引…

江戸川乱歩の発禁本「芋虫」は衝撃的/大岡昇平『レイテ戦記』第1巻(中公文庫2018年改版)と特攻隊

昨年(2021年)は読んだ100冊のうち42冊がアガサ・クリスティだった。今年はその比率を減らそう、というより自動的に減ることになる。というのは、ポワロもの長篇の6割(33冊中20冊)とミス・マープルもの長篇の半分(12冊中6冊)を読み終え、短篇集も半分以…

2021年12月に読んだ本;斎藤幸平『人新世の「資本論」』、東野圭吾『むかし僕が死んだ家』とアガサ・クリスティ『カーテン』と浦沢直樹『MONSTER』のトライアングル、そして佐藤優の駄本『生き抜くためのドストエフスキー入門』など

今年(2021年)も昨年に続いて思うような読書はできなかった。昨年は66冊*1しか読めなかった。ちょうど100冊を読みはしたものの、半分以上が10年前には見向きもしなかったミステリだった。うちアガサ・クリスティ作品が42冊(冒険ものなどを含む)だった。昨…