KJ's Books and Music

古寺多見(kojitaken)の本と音楽のブログ

林芙美子『戦線』と藤原彰『餓死した英霊たち』を読む

先々週、某区図書館で興味深い本を見つけたので借りて読んだ。林芙美子の『戦線』だ。林が1938年に朝日新聞の日中戦争・漢口攻略戦の従軍記者として派遣された時に書いた「戦線」に、1940年初めの厳冬期に満州を訪れて書き、実業之日本社が出していた月刊誌…

堀田善衛『時空の端ッコ』を読む

堀田善衛(1918-1998)が筑摩書房のPR誌『ちくま』に1986年から没年の1998年までエッセイを計150篇寄稿していた。それらは、1997年12月号掲載の分まで、同書房から4冊の単行本『誰も不思議に思わない』(1989)、『時空の端ッコ』(1992)、『未来からの挨拶…

「世界三大悪妻」って? - 小宮正安『コンスタンツェ・モーツァルト』を読む

大作曲家・モーツァルト(1756-1791)の妻・コンスタンツェがいわゆる「悪妻」で、ハイドンともう一人の誰か*1と合わせて「大作曲家三大悪妻」などと言われていることは昔から知っていた。しかし、そのコンスタンツェがどうやら日本でだけ「世界三大悪妻」に…

鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(最終回)松本清張「遭難」の創作に協力した登山家は加藤薫だったか

前回に続く連載4回目。馳星周選の『闇冥』(ヤマケイ文庫)に関する連載は、今回が最終回になる。 www.yamakei.co.jp 今回は、第1回で触れた松本清張と加藤薫、つまり同じ「遭難」というタイトルで同じ主人公名の山岳短篇を書いた2人の小説家のかかわりにつ…

鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(第3回)新田次郎「錆びたピッケル」、森村誠一「垂直の陥穽」など

前回からだいぶ間が空いてしまった。馳星周選の『闇冥 - 山岳ミステリ・アンソロジー』に収められた新田次郎の「錆びたピッケル」のヒントになった遭難事故に関する情報がなかなか発見できなかったためだが、ようやくわかった。 闇冥 山岳ミステリ・アンソロ…

鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(第2回)加藤薫「遭難」〜 山で仲間を失った山岳部員の痛恨

前回(鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(第1回)松本清張「遭難」と加藤薫・序説 - KJ's Books and Music)の続き。 闇冥 山岳ミステリ・アンソロジー (ヤマケイ文庫) 作者: 馳星周 出版社/メーカー: 山と渓谷社 発売日: 2019/02/23 メディア: 文庫 この商品…

鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(第1回)松本清張「遭難」と加藤薫・序説

1年前、去年(2018年)3月に、このブログの下記記事にコメントをいただいた。 kj-books-and-music.hatenablog.com いただいたコメントは下記。ブログ管理画面で確認すると、「2018-03-12 22:32:28」のタイムスタンプがある。つまり今から1年1か月前。 通りす…

城山三郎『役員室午後三時』を読む

前の土日(4/6,7)に城山三郎の『役員室午後三時』(新潮文庫1975, 単行本初出新潮社1971)を読んだ。 役員室午後三時 (新潮文庫) 作者: 城山三郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1975/01/13 メディア: 文庫 クリック: 4回 この商品を含むブログ (5件) を…

原武史『皇后考』と『平成の終焉』を読む

新元号が明日(4/1)に発表されるらしいので、その前に公開した方が良いと思って急いで記事を書くことにした。 今月下旬に岩波新書から原武史の『平成の終焉』が出ると知って、長い間積ん読にしてあった同じ原武史の『皇后考』(講談社学術文庫)を読むこと…

星野智幸『呪文』を読む

しばらく前に、私が購読しているブログで下記の文章にお目にかかった。 sumita-m.hatenadiary.com 鴻巣さんは「若い彼らは「顔が青いよ」とおなじように、「その答え、ちがいよ」と言ったりするのだろうか?(たぶんそれはない)」という。でも、それはある…

「長州がつくった憲法が日本を滅ぼすことになる」 〜 城山三郎『落日燃ゆ』を読む

城山三郎の『落日燃ゆ』を読んだ。 落日燃ゆ (新潮文庫) 作者: 城山三郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1986/11/27 メディア: 文庫 購入: 7人 クリック: 94回 この商品を含むブログ (61件) を見る A級戦犯として文官ではただ一人死刑(絞首刑)に処せられ…

早乙女勝元『螢の唄』と東京大空襲

東京大空襲を題材にとったこの小説は3年前に新潮文庫入りした時買おうと思って買いそびれたのだが、東京大空襲の日である3月10日の日曜日に図書館で借りて、翌3月11日(東日本大震災の日)から読み始めて3月13日(大阪大空襲の日)に読み終えた。もとは映画…

星野智幸『ファンタジスタ』を読む

星野智幸の中篇集『ファンタジスタ』(集英社文庫2006)を読んだ。集英社文庫版(2006)は、今時の新潮文庫や講談社文庫や光文社文庫などと違って文字が小さかったが、大きな文字の版が出ていないのでそれは仕方がない。この中篇集には「砂の惑星」(雑誌初…

金子夏樹『リベラルを潰せ』を読む

正直言って国際政治には無知もいいところなのだが、ウラジーミル・プーチンという人間は昔から大嫌いだ。KGBにいた後ろ暗い過去、2006年のリトビネンコ毒殺事件をはじめとする数々の殺人事件にプーチンの関与があったのではないかと疑っていること、さらには…

吉行淳之介の短篇「あしたの夕刊」とつのだじろうの漫画『恐怖新聞』、それに石川淳、ムソルグスキー

下記のアンソロジーを読み終えた。 名短篇、ここにあり (ちくま文庫) 作者: 北村薫,宮部みゆき 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2008/01/09 メディア: 文庫 購入: 7人 クリック: 49回 この商品を含むブログ (64件) を見る これは11年前に出た文庫本だが、…

小松左京「眠りと旅と夢」(1978)に「携帯電話」が出てきた

まず現在読んでいる本から引く。 村上さんのところ (新潮文庫) 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/04/27 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (6件) を見る この本は473件の質問に村上春樹が答えるという趣向で、その後プロ野球セ・リー…

『エトロフ発緊急電』の著者・佐々木譲氏の一族は択捉島出身だった

「北方領土の日」であったらしい一昨日(2/7)に公開した記事*1に「四国遍路」さんからコメントをいただいた。 kj-books-and-music.hatenablog.com 四国遍路 本書を含むいわゆる「太平洋戦争3部作」を 読んでから佐々木譲さんの著作はほとんど読んでいるもの…

乱歩と清張:江戸川乱歩『D坂の殺人事件』(角川文庫)を読む

最初に、このエントリにはネタバレが含まれていることをお断りしておきます。 前エントリの佐々木譲『エトロフ発緊急電』の前、2月最初に読んだのが江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』(角川文庫)。どういうわけか、最近岩波を含めたあちこちの文庫本から乱歩の…

佐々木譲『エトロフ発緊急電』を読む

佐々木譲が1989年に書いた小説『エトロフ発緊急電』(新潮文庫)を読んだ。太平洋戦争の直前、真珠湾攻撃を前にしたアメリカの対日諜報活動に、日系2世のスパイである主人公がかかわるエンターテインメント系冒険・歴史小説。真珠湾攻撃をかけた日本海軍の機…

「下請けいじめ」を描いた松本清張『湖底の光芒』とカルロス・ゴーン

2012年に刊行が始まった光文社文庫の「松本清張プレミアム・ミステリー」のシリーズは、2017年の第4期まではかつて同社の「カッパ・ブックス」から出ていた本を文庫化したものだったが、昨年から来月2月8日発売の『中央流沙』までの第5期8作品は、光文社から…

高橋敏夫『松本清張 「隠蔽と暴露」の作家』に欠落している視点

光文社文庫から出ている「松本清張プレミアム・ミステリー」第5期全8タイトルのうち、今日から読み始めようと思っている『湖底の光芒』を読んだら、あとは2月8日発売予定の『中央流沙』を残すのみになる。これまでの4期21タイトルは全部読んだから、しばらく…

大作曲家アントン・ブルックナーは「計数マニア」だったか - 松本清張『数の風景』より

食わず嫌いを貫いてきた松本清張に突然はまったのは、2013年の晩秋に『Dの複合』を読んだ時だった。これが初めて読んだ清張作品だったが、頁をめくる指が止まらなかった。以後病みつきになり、昨年末までで110タイトルを読んだ。上下本や、文春文庫新装版で…

ユン・チアン『ワイルド・スワン』の下放体験と小松左京「やぶれかぶれ青春記」の学徒動員体験とがそっくりな件

結局このブログを9か月も放置してしまった。ブログの更新を繰り返していくうちに、どんどん細部にこだわって超長文になるうえ、膨大な時間がかかるので、ついつい書き切れずに破綻してしまった恰好だ。 今年1月28日(もう2週間後だ)に「はてなダイアリー」…

「真贋の森」〜清張の「美術もの」「学問もの」「復讐もの」の最高傑作

松本清張という人は、作品の完成度を高めるよりも、書きたいものを書きたいだけ書く営為を続けた人だったように思う。だからその作品は文字通り玉石混淆なのだが、たとえ「石」に該当する作品であっても強い訴求力を持つのが清張作品の魅力の一つだ。 そして…

「上海リル」と「上海帰りのリル」/松本清張と尾崎秀樹と「復讐」と

1930〜40年代には戦争にのめり込んで崩壊していった日本社会だが、今では年々没落の一途をたどる国勢に、政府や役所といった統治機構の腐敗を最高権力者とその妻が主導するというわけのわからない崩壊の過程をたどっているように見える。 アメリカ映画の挿入…

松本清張「捜査圏外の条件」と流行歌「上海帰りのリル」

このブログは「古寺多見(kojitaken)の本と音楽のブログ」と銘打っていながら、音楽は一度も取り上げたことがなく、本も松本清張作品ばかりだ。だが、その清張作品をきっかけに、ようやく音楽絡みの話題を取り上げるチャンスが訪れた。 今年1月から読み始め…

松本清張『小説東京帝国大学』(ちくま文庫)を読む

今月は松本清張の長編を2作続けて読んだ。『神々の乱心』(文春文庫,2000)と『小説東京帝国大学』(ちくま文庫,2008)だ。前者は1990年から没年の1992年まで『週刊文春』に連載された未完の作品(単行本初出は文藝春秋,1997)で、後者は1965年から翌66年に…

松本清張の快作ミステリー「顔」- 鉄道の旅と「いもぼう」と「唇の厚い男」と

相変わらず松本清張にはまり続けている。2015年末頃からは「清張作品を読めるだけ読んでやろう」と思っており、上下巻を2冊に数える数え方で言えば、読んだ清張作品は既に100冊を超えた。少し前に清張処女作の「西郷札」を読んだが、今は清張絶筆となった未…

松本清張と杉田久女、森本六爾、直良信夫、それに父・峯太郎 - 『松本清張短編全集03 張込み』(光文社文庫)を読む

今年最初の更新でも、またまた松本清張作品を取り上げる。清張以外の小説も読んでるし、小説以外の本も読んでいるのだが、清張作品の場合、作品の背景を調べてみるといろいろ興味深いことを知ることができる機会が多いので、どうしても取り上げる頻度が増え…

松本清張の山岳ミステリー「遭難」と筆を折った山岳作家・加藤薫(追記あり)

このブログはずっと更新してなかったので、広告が表示されていた。年末年始の休みに入ったので久々に更新することにする。 と言っても、4年前からはまっている松本清張のミステリーについて書くのだが、最近、清張の比較的初期の短篇・中篇集である『黒い画…