読書
私が日本の「読書家」たちのあり方に大きな疑問を抱いたのは、カズオ・イシグロの『日の名残り』を読んで、この翻訳小説について書こうと思ってネット検索をかけたときだった。そのことは1年ちょっと前にこのブログに書いた。 kj-books-and-music.hatenablog…
この記事は最初『kojitakenの日記』のために書き始めたが、こちらのブログの方が適切かと思い、こちらに載せることにした。 昨日「kojitakenの日記」に公開した記事のタイトル「辞意表明の確率」から連想していたのは、一昨年春に読んだ松本清張の短編小説「…
このブログにも書いたことがあるかもしれないが、私は高校1年か2年生くらいの頃まではミステリーを好んで読んだもののその後読む機会が激減した。特に、1989年に『カラマーゾフの兄弟』を読んだ時、この小説を超えるミステリーなんかあり得ないんだから、な…
今年の新型コロナウイルス感染症で「QOL」(Quolity of Life)が下がったと感じておられる方は少なくないだろう。私もその一人だ。 在宅勤務では仕事にアクセス制限があって(テレワークなんか全然想定していなかった職場なのだ)なかなか進まなかったが、その…
図書館で借りた松本清張の『霧の会議』上・下巻(光文社文庫)*1を返却しなければいけないので軽くまとめておく。 本作は清張晩年の1984年9月11日から1986年9月20日までの2年間、読売新聞に連載された新聞小説。余談だが、連載会議後すぐに読売ジャイアンツ…
6月も本を2冊しか読めなかった。緊急事態宣言発令当時に安倍政権が言っていた7〜8割削減(すぐ「8割削減」に修正された)を4月以降の読書量で達成してしまったかのようなふがいなさだ。9年前の東日本大震災と東電原発事故の時にも本が読めなくなった時期があ…
月の大半が緊急事態宣言下にあった5月は、4月よりもさらに読書量が減り、読了した本は新潮文庫のノンフィクション2冊のみ。マーカス・デュ・ソートイ著、冨永星訳の『素数の音楽』(2013,原著2000)と、今野勉『宮沢賢治の真実 - 修羅を生きた詩人』(2020, 単…
緊急事態宣言が発令された4月は、2011年5月以来の読書量の少ない月になってしまった。武田百合子(1925-1993)の『富士日記』(中公文庫の全3冊, 2019年新版)の中巻と下巻、その関連書籍である中央公論新社編『富士日記を読む』(中公文庫, 2019)、それに…
新型コロナウイルスのニュースに振り回された3月は、先週の火曜日(24日)までがやたら納期に迫られた仕事が続いてかなり疲れた。この2つの要因によって、読んだ本の数が減り、数少ない本も軽いものが多くなった。思い出せば2011年の3月は、11日以降本を読む…
2月は忙しく、かつ新型コロナウイルスのニュースに気を取られることも多かったので読んだ本は7冊と少ない。 今月の1冊は、表題にした宮田光雄『ボンヘッファー - 反ナチ抵抗者の生涯と思想』(岩波現代文庫, 2019)に尽きる。1995年に刊行された岩波セミナー…
今年はどういうわけか年初から仕事がタイトで、1件の記事を書くのにいつも時間がかかるこちらのブログの記事を、年明け以来一度も更新できずにきた。3月半ば過ぎまではこの調子が続くので、1月と2月は「今月読んだ本」を羅列して、とりあえず昨年1月以来続け…
前回も書いた通り、今年は2012年に98歳で亡くなった音楽評論家の吉田秀和を再発見した年だった。 吉田秀和の名前を知ったのは1975年で、NHK-FMで日曜夜の深夜だったか、「名曲のたのしみ」という題の番組で、月の4週のうち3週は「モーツァルト その生涯と音…
今年(2019年)、河出文庫から吉田秀和(1913-2012)の音楽評論の本がずいぶん文庫化された。98歳まで生きた吉田が遺した膨大な評論から、作曲家や指揮者、ピアニスト別にテーマを絞って新たに編集したものが6タイトルと、2011年に発行されていた『マーラー…
今年(2019年)は松本清張を5冊しか読まなかった。昨年は41タイトル50冊を読んだが、図書館に置いてある、最近発行された文字の大きい清張作品の文庫本はあらかた読み尽くしてしまったためだ。もっとも、未読の清張の長篇はまだ3割くらい残っているのだが。 …
2週間前に新田次郎(1912-1980)の文庫本を2冊図書館で借りて読んだ。そろそろ返さなければならない。 読んだのは『強力伝・孤島』(新潮文庫)と『雪の炎』(光文社文庫)。読まれるべき本だと私が思うのは前者で、後者は物好きか山好きの方にしかおすすめ…
偶然の機会によって、新田次郎(1912-1980)の長篇小説『八甲田山死の彷徨』(新潮社,1971)のハードカバー本を入手した。1977年3月の第41刷で、本に「6月全国東宝系一斉公開!」と銘打った帯が掛かっている。たいへんな評判をとった映画だったことは覚えて…
今回はグダグダと書き散らすのはやめて、簡単にまとめて公開しておこう*1。表題の小説を未読の方はこの記事は読まない方が良い。 村上春樹の『騎士団長殺し』を読み、『ねじまき鳥クロニクル』を7年ぶりに再読したあと、同じ作者の『世界の終りとハードボイ…
先月末に読んだ大岡昇平の『事件』に続いて、月初に坂口安吾の『不連続殺人事件』(新潮文庫)を読んだ。今回は基本的にネタバレはごく一部の例外を除いてやらない。 www.shinchosha.co.jp 作品名は以前から知っていたが、昨年(2018年)秋に新潮文庫入りし…
純文学の小説家が戦後比較的早い時期に書いたミステリ系小説を2作続けて読んだ。大岡昇平(1909-1988)の『事件』(創元推理文庫2017;『朝日新聞』1961-62年連載時タイトル『若草物語』、単行本初出新潮社1977)と坂口安吾(1906-1955)の『不連続殺人事件…
村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』を再読したあと、本を2冊読んだ。うち1冊は、今月出たばかりの田中雄一著『ノモンハン事件 責任なき戦い』(講談社現代新書)を読んだが、これはあまり良くなかった。 bookclub.kodansha.co.jp この本は昨年(2018年)夏…
初めにおことわり。この記事は村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』のネタバレが満載です。この小説を未読でかつ読みたいと思われる方は、できればこの記事を読まないで下さい。よろしくお願いします。 前回更新した下記記事を書いたことをきっかけに、村上春…
先々週、某区図書館で興味深い本を見つけたので借りて読んだ。林芙美子の『戦線』だ。林が1938年に朝日新聞の日中戦争・漢口攻略戦の従軍記者として派遣された時に書いた「戦線」に、1940年初めの厳冬期に満州を訪れて書き、実業之日本社が出していた月刊誌…
堀田善衛(1918-1998)が筑摩書房のPR誌『ちくま』に1986年から没年の1998年までエッセイを計150篇寄稿していた。それらは、1997年12月号掲載の分まで、同書房から4冊の単行本『誰も不思議に思わない』(1989)、『時空の端ッコ』(1992)、『未来からの挨拶…
大作曲家・モーツァルト(1756-1791)の妻・コンスタンツェがいわゆる「悪妻」で、ハイドンともう一人の誰か*1と合わせて「大作曲家三大悪妻」などと言われていることは昔から知っていた。しかし、そのコンスタンツェがどうやら日本でだけ「世界三大悪妻」に…
前回に続く連載4回目。馳星周選の『闇冥』(ヤマケイ文庫)に関する連載は、今回が最終回になる。 www.yamakei.co.jp 今回は、第1回で触れた松本清張と加藤薫、つまり同じ「遭難」というタイトルで同じ主人公名の山岳短篇を書いた2人の小説家のかかわりにつ…
前回からだいぶ間が空いてしまった。馳星周選の『闇冥 - 山岳ミステリ・アンソロジー』に収められた新田次郎の「錆びたピッケル」のヒントになった遭難事故に関する情報がなかなか発見できなかったためだが、ようやくわかった。 闇冥 山岳ミステリ・アンソロ…
前回(鹿島槍ヶ岳に死す - 山岳の惨劇(第1回)松本清張「遭難」と加藤薫・序説 - KJ's Books and Music)の続き。 闇冥 山岳ミステリ・アンソロジー (ヤマケイ文庫) 作者: 馳星周 出版社/メーカー: 山と渓谷社 発売日: 2019/02/23 メディア: 文庫 この商品…
1年前、去年(2018年)3月に、このブログの下記記事にコメントをいただいた。 kj-books-and-music.hatenablog.com いただいたコメントは下記。ブログ管理画面で確認すると、「2018-03-12 22:32:28」のタイムスタンプがある。つまり今から1年1か月前。 通りす…
前の土日(4/6,7)に城山三郎の『役員室午後三時』(新潮文庫1975, 単行本初出新潮社1971)を読んだ。 役員室午後三時 (新潮文庫) 作者: 城山三郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1975/01/13 メディア: 文庫 クリック: 4回 この商品を含むブログ (5件) を…
新元号が明日(4/1)に発表されるらしいので、その前に公開した方が良いと思って急いで記事を書くことにした。 今月下旬に岩波新書から原武史の『平成の終焉』が出ると知って、長い間積ん読にしてあった同じ原武史の『皇后考』(講談社学術文庫)を読むこと…