KJ's Books and Music

古寺多見(kojitaken)の本と音楽のブログ

2020年1月に読んだ本:カフカ『失踪者』『城』『流刑地にて』、樋口陽一『リベラル・デモクラシーの現在』、島田雅彦『虚人の星』など

 今年はどういうわけか年初から仕事がタイトで、1件の記事を書くのにいつも時間がかかるこちらのブログの記事を、年明け以来一度も更新できずにきた。3月半ば過ぎまではこの調子が続くので、1月と2月は「今月読んだ本」を羅列して、とりあえず昨年1月以来続けている毎月の更新を継続したい。

 今月は、2006年に白水uブックスから出た全8冊の「カフカ・コレクション」(池内紀訳、底本は白水社版「カフカ小説全集」全6巻, 2000-2002)から『失踪者』、『流刑地にて』、『城』の3冊を読んだ。カフカは30年以上前の1980年代に『変身』と『審判』を読んで以来。図書館で見かけたのでまず『失踪者』を借りたところ、カフカの小説の面白さもさることながら、昨年亡くなった池内紀の個性の強い訳文にはまってしまった。ネット検索をかけたところ、私と同様に池内氏の文体にはまったという人を複数発見した。氏の文体は確かに癖になる。「やおら」と「やにわに」という2つの言葉を偏愛しているのが目立つ。

 

www.hakusuisha.co.jp

 

 今月読んだ3冊のうち、未完の長編の(といっても3つしかないカフカの長篇はすべて未完だが)『城』が一番長いが一番面白い。それに次ぐのが、かつては『アメリカ』と呼ばれていた『失踪者』で、これはドイツからアメリカに渡る15歳ないし17歳*1の少年カール・ロスマンの物語だが、カール少年よりも先に小説の方が「失踪」して未完に終わった。子の小説の設定を下敷きにしたのが、15歳の田村カフカ少年が東京から高松に渡る村上春樹の『海辺のカフカ』だろう。短篇を集めた『流刑地にて』が一番とっつきにくい。

 

 1月は8か月ぶりに松本清張を2冊読んだ。文春学藝ライブラリーに収められた『昭和史発掘 特別篇』と光文社文庫の「松本清張プレミアム・ミステリー」の第6次シリーズに収録された『翳った旋舞』。前者は2009年に文春新書から出た『対談 昭和史発掘』を再編集して解題したもので、全13巻(現在の文春文庫新装版では全9巻)の『昭和史発掘』に収録されなかった2篇に、1974年に行われた清張と城山三郎五味川純平鶴見俊輔3氏との対談を併録したもの。後者は1963年に「女性セブン」に連載されたものの20年間放置され、1983年に一部書き改められた上で、角川書店から単行本化された。いずれも清張マニアくらいしか読まない本だろう。

 

 政治絡みでは、昨年12月に岩波新書から出た樋口陽一の『リベラル・デモクラシーの現在』は良かった。

 

www.iwanami.co.jp

 

 日本の政治はまず、歴代自民党政府がないがしろにしてきた立憲主義に立ち返るところから始めなければなるまい。古い政治思想ではあるが、日本の政治はその前提さえクリアできていない。だから現在の安倍政権の惨状がある。戦前の政党には「立憲」の2文字がつくことが多かったが、昨年の参院選で落選した、東大法学部卒の某元自民党参院議員、いや実名を出そう、礒崎陽輔は「立憲主義なんて習わなかったぞ」と嘯いた。その「立憲」の2文字を復活させて3年前の衆院選で躍進した政党があったが、その政党との合流協議で玉木雄一郎は「立憲」の2文字を外させようと躍起になったあげくに合流は破談になった。枝野幸男にも買えないところが多いが、玉木はそれ以前の論外の政治家というほかない。

 

 安倍晋三絡みでは、明らかに安倍をモデルにして島田雅彦が2015年に出した小説『虚人の星』*2を読んだ。

 

bookclub.kodansha.co.jp

 

 しかし、大の安倍批判派だという島田雅彦のこの小説は「ぬるい」の一語。ことに終わり近くの部分が最悪で、安倍昭恵をモデルにした登場人物「玲子」だの、明仁天皇夫妻だのを善玉に描いてしまっている。「家庭内野党」をウリにして人気を博していた安倍昭恵は、この小説の刊行からわずか1年半後に発覚した森友問題によってその醜悪な正体を露呈したから、発表後短期間で色あせてしまった小説と評するしかない。講談社文庫版の解説を書いているのがあの上杉隆であって、島田雅彦はその上杉に文庫本解説の執筆を依頼したというのだから、島田のどうしようもなさがわかろうというものだ。『虚人の星』は最初の方は面白かっただけに残念。「キョジン」*3の祟りでもあろうか。

 安倍晋三をモデルにした小説なら田中慎弥の『宰相A』、政権批判側の立場に立った政治的な小説なら星野智幸の一連の小説の方がそれぞれずっと良いというのが私の評価だ。

 なお島田雅彦は、昨年の参院選山本太郎が代表を務める元号政党*4を応援したという。

 

 今月は他に安部公房『水中都市・デンドロカカリヤ』(新潮文庫)、新田次郎『冬山の掟』(文春文庫)、竹内悊『生きるための図書館』(岩波新書)を読んだ。

*1:この未完の小説の草稿では17歳の設定だが、第1章だけ独立して1913年に発表された短篇「火夫」で15歳に改められた。

*2:スポ根も読売もこの小説には関係ない。

*3:プロ野球球団のニックネームの漢字表記は、私のブログのNGワードとしている。

*4:この政党の名前にも私のブログにおけるNGワードである現在の元号が含まれているため、私はいつも「山本太郎元号政党」を縮めた「山本元号党」または「山本党」と表記している。