KJ's Books and Music

古寺多見(kojitaken)の本と音楽のブログ

2020年2月に読んだ本:宮田光雄『ボンヘッファー - 反ナチ抵抗者の生涯と思想』(岩波現代文庫)など

 2月は忙しく、かつ新型コロナウイルスのニュースに気を取られることも多かったので読んだ本は7冊と少ない。

 今月の1冊は、表題にした宮田光雄『ボンヘッファー - 反ナチ抵抗者の生涯と思想』(岩波現代文庫, 2019)に尽きる。1995年に刊行された岩波セミナーブックスを加筆・修正したものとのこと。著者の宮田光雄さんは1928年生まれで、90歳を超えてなおこのボリュームの本を加筆・修正されたことにまず頭が下がる。

 

www.iwanami.co.jp

 

 私がボンヘッファーの名前を知ったのは2002年で、最上敏樹『人道的介入』(岩波新書, 2001)の初めの方に出てきて強い印象を受けた。

 

www.iwanami.co.jp

 

 最近では、昨年(2019年)、醍醐聡氏のツイートに何度かボンヘッファーの名前が出てきた。下記に一例を示す。

 

 

 蛇足ながら、上記ツイート中「ボンフェッハー」は「ボンヘッファー」、「橋下」は「橋本」のそれぞれ誤表記。

 

 さて宮田光雄の岩波現代文庫ボンヘッファー』だが、キリスト教の神学の話など難解な部分も多い。しかしそれだけに読み終えた時の充実感も得られる。本の終わりの方にあるボンヘッファーによる日本の天皇制批判など、まことに興味深いが、その部分だけ先に読んでも十分な理解は得られないのではないか。わかりにくい、あるいはわからない部分も多いなりに丹念に読んで、最後にボンヘッファーによる天皇制批判に触れた第8章を読んで、ようやく理解の手掛かりが少しは得られたように思われた。なお、ボンヘッファーによる天皇制批判の要約等は時間の都合で省略する。時間ができた時に新たなエントリを起こして紹介できれば良いとは思うが、今のところその目処は立たない。

 この本を読んでいた頃(2月13~18日)、夜のニュースやネットに出てくる、安倍晋三山本太郎や彼らを信奉する「信者」だのの言動や言説に接すると、そのあまりの落差に目がくらむ思いだった。彼ら、ことに安倍晋三とその信者(いわゆるネトウヨ)の低劣さは天皇制どころの話ではない。

 彼らは論外として、近年天皇制に容認的な人がずいぶん増えたリベラル・左派の人たちには、是非この本を読んでいただきたいと思う。

 

 他に読んだ本。白水uブックスフランツ・カフカ池内紀・訳)『断食芸人』。これでカフカの生前に発表された短篇と中篇はすべて読んだことになるらしい。

 また星野智幸の古い小説を3冊読んだ。『虹とクロエの物語』(河出書房新社, 2006)、『植物診断室』(文芸春秋, 2007)、『水族』(岩波書店, 2009)。この中では小野田維のカラー挿絵が多数挿入された『水族』が、ちょっと星新一的なテイストもあって印象に残った。また『植物診断室』は芥川賞候補作で落選したが、星野はこれを最後に新人に与えられる賞に応募するのは止めたらしい(既に中堅作家になったため)。星野は早大一文卒だったと思うが、アンチ村上春樹であることは『虹とクロエの物語』を読んでもわかる。

 その村上春樹川上未映子の対談本『みみずくは黄昏に飛びたつ』(新潮文庫, 2019)も読んだ。『騎士団長殺し』をめぐる話題が多い。

 最後は高杉良の『小説会社再建』(講談社文庫, 2008)。初出は『太陽を、つかむ男 - 坪内寿夫』(角川書店, 1985)で、高杉良がまだ40代だった頃に、来島どっく社長にして、佐世保重工社長にもなって同社の再建に乗り出した坪内寿夫を礼賛した企業小説。

 正直言って、この本のような経営者を主人公とした企業小説には、どうしても限界を感じてしまう。それとものちにはリベラル色を強めた高杉良も、80年代当時はこういうスタンスだった。なにしろ高杉には、現在では悪名高いワタミ創業者の渡邉美樹(2013年から昨年まで自民党参院議員)を礼賛した著書も2冊あったりする。

 『小説会社再建』は、今までに何冊か読んだ高杉の小説の中では、共感できるところがもっとも少なかった。もっとも、坪内と対立した佐世保重工労組(労愛会)の国竹七郎もとんでもない人物だったようだ。同盟(旧民社党系)の労組でありながら、なぜ坪内ら経営陣との対立を尖鋭化させたのかと訝りつつ読んでいたのだが、自分の出世が第一の俗物だったようだ。国竹に関連してネット検索で拾ったブログ記事を下記に挙げておく。

 

blog.goo.ne.jp

 

 上記ブログ記事に、下記の記述がある。

 

 筆者が佐世保重工を退職したのはストライキ終結直後の1980年2月である。この年の5月、国竹七郎委員長は民社党から衆議院選挙に立候補した。その5年後、『労働貴族』を書いた作家・高杉良は社長の坪内寿夫をモデルにした小説『太陽を、つかむ男』を出したが、そこには驚くべきことが暴露されている。

 <国竹は衆議院選挙に際して、臆面もなく坪内にカンパを求める鉄面皮ぶりを発揮し、坪内の側近を驚かせたが、坪内は「男が頭を下げて、頼みにきよるものを追い返すわけにもいかんじゃろうが」と言って、何百万円かのポケットマネーを出してやった。
 国竹は、中央政界入りを目指して、佐世保重工の労使紛争を利用し、自分の顔を売り込もうとした、という噂が立ち、一般労働者の支持を失ったことが落選の憂き目をみる結果をもたらしたのではないか、と見る向きが少なくないが、果たしてどうであろうか。また国竹は相当額の借金が会社に残っていたが、坪内のポケットマネーで割り増しの退職金を支給し清算させた。>

 国竹七郎委員長が作家の高杉良名誉毀損か何かで訴えたとは聞かないから、この記述に嘘はなかろう。「佐世保重工の“近代化”闘争」がどんなものであったか、この小説が“真実”の一端を語っている。

 

出典:https://blog.goo.ne.jp/inemotoyama/e/fb64c3ac2b60d27976d75044e25962c7

 

 上記の引用文には、高杉の小説からの引用文(弊ブログ記事から見れば孫引き)があるが、これは私が読んだ2008年の講談社文庫版では422-423頁に出てくる。

 坪内寿夫と国竹七郎の対立構図は、正直言ってどちらに肩入れする気にもなれない。

 

 3月は、現在の予定ではやはり忙しいので月末だけの更新にする予定だが、新型コロナウイルスの影響で暇が増える可能性もなくはない。その場合はもう少しこのブログの更新の頻度が増えるかもしれない。